トランプ政権が誕生してから早くも一年になります。2017年12月、選挙中に公約したことの中でも、目玉中の目玉ともいえる政策が上院下院で可決されました。ようやく30年ぶりの大型減税が実現しそうです。


この発表で、今後のアメリカ経済にも大きな影響がでてくることが予想されます。しかし、まだほとんどの公約は達成できていません。


選挙中にいろいろと公約が提示されましたが、どんな政策を公約していて、現在はどうなっているのでしょうか。その政策内容をざっくりとご紹介したいと思います。



30年ぶりの税制改革

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出典元:https://www.ibtimes.co.uk


政策の一つは、大幅減税です。法人税、所得税など、思い切った減税をすると言っていましたが、とうとうこれが上院・下院で可決されました。


当初は法人税を15%まで引き下げるという案だったわけですが、法人税は恒久的に35%から21%に引き下げられることで決定。現在7段階にわかれている税率は12、25、35%と3段階に簡素化されます。また、最高税率も39.6%から35%に引き下げられる案で、上院・下院が合意しています。


他にも、相続税の引き下げ、子供の税額控除の拡大、企業が海外で得た利益への課税引き下げなど、大々的に減税されることになります。


保守系シンクタンク「税金基金」の分析によると、この減税政策によってトップ1%の最富裕層は収入が2ケタ増えることになり、最も収入の低い25%は収入が1.9%増えることになります。


いい政策なのかなと思いますが、アメリカの最富裕層の所得税率は低所得の人に比べてかなり高いです。年間所得が100万ドルを超えると連邦所得税率は平均29%くらいになります。


でも、年間所得が2万~3万ドルの場合、所得税率は5.7%ほどです。さらに、上位20%の高額納税者が、連邦税総額の70%近くを負担しているので、この政策になると国全体の収益が減るってことになります。


確かに税金を引き下げれば、それなりの経済的な効果が期待できるというのも一理あります。ただ、高額納税者の税額を減額するのは、国の収益を確保するという点では疑問です。


というのも、日本の場合なら所得税の最高税額は40%、それに地方税である住民税を加えれば最高55%になるからです。こういった方法で、なんとか国の予算を組んでいます。


また、日本の法人税は現在30%前後、イギリスに関してはおおよそ20%です。法人税が非常に安いとされているシンガポールでも約17パーセント、香港でさえ16パーセントなので、35%から21%に引き下げるというのは無謀な減税のように感じます。


今回の税制改革にともない連邦政府の歳入は、今後10年の間に最大で5兆9000億ドルまで落ち込むとみられています。もしそうなれば、政府を運営する財源はどこからもってくるのでしょう。


連邦職員の人員削減案や新規採用のストップ案はありますが、それが通ったとしてもこれだけではまったく足りません。となると、国債を発行するということになります。


でもアメリカはすでに、日本と同様、借金大国です。米国では、政府が借金できる金額の上限が法律で決められています。仮に返済が期日どおりに出来ない場合、当然デフォルト(債務不履行)になります。もしもこうなったら、世界大恐慌になる可能性も高いです。


ただ、これを回避するために、アメリカでは毎年債務上限の額を増やしています。つまり、借金の額に制限があるようで、実は無制限に借り入れができるということになります。


借入金の上限は毎年引き上げられていて、根本的な解決にはなっていません。また具体的な解決策もないままです。


しかし、毎年必要になるお金はほとんど変わらないはずです。ですので、なんとか捻出するしかありません。もしくは、中国や日本が大量に購入しているアメリカの国債を踏み倒すという手もあります。


「え!」っと思いませんでしたか。こんなことができるのかというと、アメリカの法律では合法です。米国には「国際非常時経済権限法」(IEEPA)という法律があり、もしもアメリカの安全保障や経済事情に重大な問題が発生した場合、外国が保有する米国の資産については、その権利の破棄や無効化が適用されます。


つまり、非常事態が発生した場合、外国がもつ米国債は、チャラにされてしまうこともあるのです。大規模な減税政策が可決されたということは、今後何が起こってもおかしくはない状態です。


インフラ投資と減税をカバーするために100年債の発行を検討

トランプ大統領のインフラ政策

出典元:httpss://inframanage.com


1兆ドルのインフラ投資をするために100年債の発行が検討されています。100年債というのは、その国債が償還されるまでの期間が100年あることです。


つまり、100年間お金を借り続けている間は、その国債を購入した投資家に利子を払い続けることになります。100年というのは長いですよね。ところが、これは不可能というわけではありません。


確かに100年の国債と聞くと無鉄砲のように思います。しかし、ベルギーやアイルランドでは100年債を発行していますし、英国においては、コンソル債と呼ばれる永久債を発行したこともあります。現在でもほんのわずかですが、コンソル債は流通しています。


ただ、償還期限を過剰に長く設定して国債の発行を続けていると、どうしても財政規律が緩んできます。政策に失敗すれば、一種のヘリコプターマネーになってしまう可能性もあります。


借金を踏み倒さずにインフラ投資と減税分の財源を捻出するとなると、やはり国債の増発で賄うしかありません。こうなると市場には大量の国債が出回ることになり、金利は上昇する可能性が高くなります。


今はまだ金利が低い状態にあるので、このタイミングで100年債を大量に発行すれば、金利がある程度上昇したとしても、利払いが出来なくなるということにはならないはずです。


アメリカはインフラ整備がかなり整った国で、道路も通信も世界最大規模です。でもこれは、アメリカが強い力をもっていた数十年くらい前につくられたものになるので、今では老朽化が進んでいます。インフラ投資の規模は総額1兆ドル(約113兆円)にもなるので、もし実現できれは経済的効果は莫大なものになるといえるでしょう。


トランプ政権発足後、ダウ平均株価は値上がりを続けていて、最高値を更新しています。というのは、トランプ政策から好景気になることを見込んだ投資家達が、ここぞとばかりに株を買い占めているからです。


この経済政策は、10年間で2500万人分の雇用の創出をインフラ投資、貿易赤字削減、減税、規制緩和によって実現することですが、政策は難航している模様です。





予算案で軍事費を1割(6兆円)増加させる計画

アメリカ軍事予算

出典:httpss://edition.cnn.com


軍事費については削減ではなく、増加を主張しています。2018年度(17年10月~18年9月)の予算案で軍事費をこれまでより1割増加させる計画を明らかにしました。


これは戦時中の軍事費に相当する金額で、540億ドル(約6兆円)と歴史的増額になります。海外援助などを大幅削減して手当てする方針です。


ただ、下院においても上院においてもこの法案は、いまだ可決されていません。しかしながら、2017年8月にはスティーブ・バノン首席戦略官・上級顧問を解任しました。


バノンさんは今回の大統領選を勝利に導いた立役者で、一時は「陰の大統領」とまで呼ばれていた人です。ただ、北朝鮮問題で大統領との間に意見が対立してしまい、その結果、ホワイトハウスを去ることになりました。


バノンさんに限らず、側近がバタバタと離れています。本来大統領の手や足となって働くはずの側近がいない状態なので、政策も一向に進まないというのが現状です。


外交でも軍事費の増加を強調

トランプ大統領の政策は軍事主義

出典:https://dialoguewithdiversity.com

米国の国益を最優先することを強調しています。また、欧州やアジアの同盟国には国防費の負担増を強く要求しているのも有名です。このため日本も大量の防衛装備を購入しています。


NATOでも特例の存在で、2017年5月ブリュッセルで開かれた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席したときは、加盟国の首脳たちに対し、「応分の防衛費を負担しない加盟国を防衛する義務はない、」と主張したことは話題になりました。


同会議出席者からは、この内容を巡ってNATOの仕組みに対する理解が欠けているということで「失望」の声があがっています。


貿易赤字を削減するための強硬手段

TTPは「最悪の協定だ」として環太平洋経済連携協定(TPP)から永久に離脱することを表明しました。これだけでなく、北米自由貿易協定(NAFTA)に関しては、NAFTA破棄の可能性も出てきています。というのはメキシコとの貿易摩擦が拡大しており、貿易赤字全体の相当部分になるからです。


貿易赤字を縮小するため低賃金のメキシコが米国から工場と雇用を奪ったという理由でNAFTA見直しを要求していて、「メキシコ製品に35%の国境税を課す」など主張しています。


NAFTAの交渉は継続されていますが、メキシコ当局者は容認できないと反発しているので、NAFTA破棄ということもありえそうです。


突然の移民・難民の受け入れ禁止

トランプ大統領の移民政策

出典元:www.voanews.com


移民・難民には反対です。このため、非現実的ではあるものの、米国とメキシコの国境に全長3000キロ以上の巨大な壁を設置するという提案を主張しています。


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出典:www.salon.com


合法で移民している米国住民の削減案もだしているので、米国各地ではデモが絶えません。オバマ大統領が打ち出した不法移民の強制送還を延期するという案も完全否定しており、取り消すことを強調しています。


さらに、米国内に住む1100万人以上の不法移民を強制送還することを主張して、突然7カ国のイスラム教徒の入国を禁止しました。このとき対象となったのはイラク・シリア・イラン・スーダン・リビア・ソマリア・イエメンです。この内シリアからの難民受け入れに関しては無期限で停止することを表明しました。


この大統領令の対象となったひと達は、突然の事態により世界各地で足止めを食らい、一時大騒ぎになりましたが、サンフランシスコ控訴裁はこの大統領令を却下、事実上の敗訴となり、イスラム教徒の入国禁止はとりあえず撤回されています。


しかし、難民・移民には完全反対主義者なので、オバマさんが許可した難民の受け入れ数の半分以下しか認めていません。


また、「サンクチュアリ・シティー(聖域地域)」と呼ばれる「移民保護地域」があります。ここは不法移民に寛容な地域で、ロサンゼルスやニューヨークなど全米の大都市が多いです。


不法移民を保護する「サンクチュアリ・シティ」に宣戦布告し、そこへの補助金支出を停止する大統領令を発表。しかし、カリフォルニア州サンフランシスコの連邦地裁判事はその大統領令の差し止めを命じる仮処分を下しており、またしても公約は達成できていません。


共和党寄りの最高裁判所判事を指名

アメリカ最高裁判官判事

出典元:https://www.nydailynews.com


アメリカの最高裁判所の判事は、全部で9人です。というのは偶数になると意見が半々に分かれた場合、決着がつかなくなるので、こう決められています。最近までは、共和党(トランプさんの党)は5人、民主党は4人だったので、なにかと有利でした。


ところが、共和党の判事が2016年2月に他界してしまい、「4:4」になったことから大統領の権限により、最高裁判所判事を指名しています。


任命されたのはニール・ゴーサッチ判事です。任命当初、ゴーサッチ判事とトランプさんの関係は好調でした。ところが、入国禁止令の執行差し止めを命じた連邦判事を攻撃的に非難したりするので、ゴーサッチ判事は「やる気をうしなう」「残念」などの言葉を関係者に漏らしています。つまり、ゴーサッチ判事ともあまりうまくいっていません。


最高裁判所の判事の任期は無期限です。仮にやめる場合、自ら辞任するか、もしくは死ぬまで職を追われることはありません。どうも、雲行きが怪しくなってきています。


腐敗政治を根絶するはずが……

トランプ大統領の政治不正疑惑

出典:https://www.talknetwork.com


「政治家や公務員が権力を利用して不当な利益を得るのは無くそう!」という公約でした。ところが「ロシア・ゲート問題」が発覚。深刻な政治腐敗として全米を騒がせています。


ロシアゲート事件で政権内部から流出した情報はもう止まらない状態です。ウォーターゲート事件でニクソン大統領が辞任に追い込まれたのは、情報流出が大きな原因です。


この問題でFBIに虚偽供述したフリン前大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、訴追されています。これは政権高官で初めてのケースです。


ロビー活動の規制

トランプ大統領のロビー活動に対する考え

出典:httpss://www.npr.org

ロビー活動とは「政治家や公務員を利用して、特定利益を得ること」です。ロビー活動をするひとは、ロビイストと言われていいますが、今回の減税改革によって活動はより活発になってきています。


今年新たに税制関連のロビー活動を届け出たのは500団体にものぼり、その数は昨年の倍以上です。


ただ、基本ロビー活動には否定的で、政府や議会関係による退職後5年間のロビー活動、政府関係者による外国政府のためのロビー活動および外国人ロビイストがアメリカ国内の選挙のために資金集めをすることを禁止しています。


環境問題よりもアメリカ第一主義

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出典元:https://correctrecord.tumblr.com

環境問題にはほとんど関心がありません。環境問題よりも国益に重点を置いており、環境保護庁(EPA)の予算は削減していく方針です。


パリ協定はアメリカ経済と雇用に打撃を与えると主張し「アメリカ第一主義」という理由でとうとう離脱してしまいました。


トランプ大統領のアメリカ第一主義政策

出典元:https://www.cbc.ca


資源開発の規制撤廃

アメリカには、近年注目されるシェールガスなど、貴重な資源が豊富に眠っています。しかし、化石燃料の使用が地球温暖化の要因になっているという指摘もあり、採掘は規制されていました。


しかし、「エネルギーの自立と経済成長」を優先させるため、資源開発の規制をほぼ撤回。2017年3月28日には、オバマ政権が定めた「クリーンパワープラン」も廃止しています。


オバマさんが取り組んでいた政策のなかに、アメリカの二酸化炭素排出量縮減に向けての取り組みがありましたが、その大部分を無効にする大統領令にも署名。緑の気候基金への拠出も30億ドル=3300億円相当かかるため、これもカットする方針です。


オバマケア改廃は上院で頓挫

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出典元:httpss://www.emiratesnbd.com

いくつもの公約のなかで、もっとも力を入れている政策の一つは、オバマ前大統領のアメリカ医療保険法案の廃止です。アメリカではこの法案が成立するまで、4000万人以上の人が国民健康保険の適用を受けていませんでした。


「日本にくらべて自分のことは自分で守れ!」という傾向が強い国なので、国民の多くは民間の企業に加入しています。しかし、保険料を支払えないという中低所得者は国民の6人に1人もいるので、病状が悪化するまで医療を受けられない人も数多く存在します。


そこで、この問題を解決するために民間より安い料金で公的医療保険への加入を国民に義務付ける制度がオバマケアです。オバマケア改廃案は一度は下院を通過したものの上院では頓挫をくり返しています。この公約が可決されるかどうか、今後の行方については全く読めません。


オバマケアには反対なものの、国民の保険制度は無視できないので、その代わりに導入を検討しているのが「医療用貯蓄口座」です。税金から数パーセントを「医療貯蓄口座」に積み立てて、必要な時につかう、という感じの制度です。


それとビジネス第一主義のため、現在4000以上もある承認待ちの医薬品の認可を急ぎ、製薬業界を活発化させようという動きもあります。


妊娠と中絶

トランプ大統領の中絶に対する考え

出典元:https://www.bbc.com/


人工中絶は違法にすべきで、中絶した女性は「何らかの罰」を与えるべきだとの発言をしましたが、これは修正されています。


しかし、「強姦、近親相姦、母体に命の危険性がある場合」を除いて中絶禁止を支持しています。これについては、女性の権利を軽視しているという声も上がっています。


白人絶対主義者ということでも有名なので、今後いかなる大統領令を表明するか先が見えない状態です。この発言はMSNBCのニュースでも取り上げられており、波紋を呼んでいます。


ご紹介したのは公約の一部になりますが、まとめるとトランプ大統領の政策はオバマ政権の政策とは全く異なり、すべてがアメリカ第一優先の政策になっていることです。


かつて世界のリーダーとして諸外国をまとめていたアメリカの影は今はもうありません。トランプラリーはこれからも続くのか、はたまたトランプショックとなるのか、今後の行方が気になります。